ブチロフェノン系抗精神病薬は定型抗精神病薬である。抗幻覚妄想作用は強いが、錐体外路症状(EPS)が多い。
ブチロフェノン系化合物は Janssen 研究所で合成されたものであるが、その出発点は合成麻薬性鎮痛剤のメペリジンとされている。メペリジンからブチロフェノン系薬剤のプロトタイプといわれているハロペリドールが 1958年にPaul A. J. Janssen により合成されて以来、約5,000 の誘導体が作られ、その中の19種類の化合物につき臨床試験が行われた。
ハロペリドールの最初の臨床試験は1958年、Liege大学精神科のDivryらの手で行なわれた。その後ヨーロッパ各地(ベルギー、フランス、ドイツ、デンマークなど)の施設で経口、非経口投与による臨床試験がなされ、精神運動興奮、幻覚、妄想、躁状態、舞踏病、チック、精神病質の攻撃性、不安、不眠、悪心・嘔吐、急性、慢性のせん妄、うつ病の不安などの症状軽減に有用であることが明らかにされた。日本では1964年から商品名セレネースとして市販されている。余談であるが、商品名Serenace の名称は「Serene(静かな、穏やかな)+ace(優秀な)で、すぐれた鎮静・静穏化剤の意味をもつ」に由来している。適応病名は統合失調症、躁病である。錠剤、細粒、内服液、注射剤がある。商品名ハロマンスの名称で持続効果注射剤が販売されていて、4週間間隔投与が可能である。
ブロムペリドールはハロペリドールと同じくヤンセン社で合成されたブチロフェノン系抗精神病薬で、本邦では1985年から商品名インプロメンとして吉富製薬(現田辺三菱製薬)から販売されていたが、2019年に販売が終了された。現在は後発品ブロムペリドールが販売されている。
ピパンペロンは 6番目に開発されたブチロフェノン系薬剤で、外国では Dipiperon の名で商品化されている。日本においては、エーザイから商品名プロピタンが1965 年に販売が開始された。ピパンペロンは急性・慢性統合失調症の幻覚・妄想など異常体験を早期に消退させ、不安、緊張、興奮などの症状にも抑制作用を示す。
スピペロンはJanssen 研究所で1962年に9番目に開発されたブチロフェノン系抗精神病薬で、強力な抗精神病薬に位置づけられており、精神抑制作用と賦活作用の二面性を持つスペクトルの広い薬剤である。精神運動興奮、幻覚・妄想などに速やかな抑制効果を発揮し、また自発性減退、感情鈍麻など陳旧性統合失調症の中核症状に対しても奏効することが報告されている。わが国では1969年にエーザイから商品名スピロピタンとして販売された。
チミペロンは1973年に第一製薬株式会社(現:第一三共株式会社)研究所において創製された国産初のブチロフェノン系抗精神病薬である。本剤は抗精神病作用と関連すると考えられる自発運動抑制作用、抗メタンフェタミン作用等が強力であり、また錐体外路系の副作用の指標と考えられているカタレプシー惹起作用との間に乖離が認められ、1976年より臨床試験を開始した。その結果、幻覚・妄想、興奮に対し優れた臨床効果を示すことが認められ、1983年に 「統合失調症」の効能・効果で製造販売承認を得、1984年に商品名トロペロンとして発売された。内服薬のほか注射剤がある。
ハロペリドール(セレネース)
ブロムペリドール(ブロムペリドール)
ビバンペロン(プロピタン)
スピペロン(スピロピタン)
チミペロン(トロペロン)