ベンザミド系抗精神病薬は定型抗精神病薬に分類される。ベンザミド系抗精神病薬はフェノチアジン系抗精神病薬同様、脳内のドパミンD2受容体を阻害することによって、抗精神病作用を表すと考えられている。
1957年フランスの旧Delagrange 社の SESIF 研究所(現 Sanofi)が 抗不整脈薬プロカインアミド誘導体から制吐剤を開発する目的で研究を行い、1965年に制吐作用と抗精神作用を有するスルピリドを合成した。スルピリドは胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治癒、抗潰瘍作用を有するとともに、抗うつ作用、抗精神病作用を持つユニークな薬剤である。わが国では1973年に胃・十二指腸潰瘍の適応で承認され、藤沢薬品(現アステラス製薬)が商品名ドグマチールとして販売した。その後、1979 年に精神分裂病(現 統合失調症)、うつ病・うつ状態に適応を拡大した。スルピリドは胃粘膜血流改善作用による抗潰瘍作用と末梢ドパミン D2 受容体遮断による消化管運動促進作用を示す。また、脳内のD2 受容体遮断作用を示し、抗精神病作用(統合失調症の陽性症状改善)と抗うつ作用をあらわす。副作用としてプロラクチン値上昇、体重増加がある。
スルトプリドはスルピリドのベンゼン環の5 位スルファモイル基をエステルスルホニル基に置換することにより1970 年に製剤化されたベンズアミド系化学構造を有する製品である。その後、本剤はフランスで躁病、統合失調症を対象とした臨床試験が実施され、強い鎮静作用、抗妄想作用などが認められたことから 1974年に急性期、慢性期の精神異常症状を適応症として承認されている。本剤の国内への導入は 1980 年旧三井製薬株式会社(現バイエル薬品株式会社)が導入し、臨床開発を行った。その結果、本剤は統合失調症、幻覚、妄想に対し効果を有すると共に、興奮、攻撃性、敵意、疑惑など陽性症状を改善し、かつ躁病に対して速効性を示すことが明らかになり、1989 年躁病と統合失調症の興奮及び幻覚・妄想症状を適応症として承認され、商品名バルネチールとして販売された。
SESIF研究所はスルピリドを開発後、 さらに新しい抗精神病作用を有するベンザミド誘導体を求めて合成及び薬理スクリーニングを重ねた結果、1972年にチアプリドを見いだした。薬理学的には中枢神経系のドパミン受容体遮断作用を有する。チアプリドはフランスでの臨床試験の結果、老年期ないし脳血管障害時の攻撃的行為、精神興奮、徘徊、せん妄、 並びに特発性ジスキネジア及びパーキンソニズムに伴うジスキネジアに有効であることが確認された。 我が国では 1974 年より薬理試験、1979 年より第Ⅰ相試験、その後の二重盲検試験等により有効性と安全性が確認され、1987年に脳梗塞に伴う攻撃的行為、精神興奮、徘徊、せん妄の改善、特発性ジスキネジア、パーキンソニズムに伴うジスキネジアに対する承認を得て、商品名グラマリールが発売された。
山之内製薬(現 アステラス製薬)は、1975年頃、中枢性抗ドパミン作用を持つ一連のベンズアミド誘導体を発見した。この頃、同じベンズアミド系のスルピリドに抗精神病作用があることが報告された。そこで、新しい抗精神病薬の創製を目的としたベンズアミド系の化合物の合成とスクリーニングを更に進め、1978年に極めて強いドパミンD2受容体遮断薬であるネモナプリドを発見した。 その後ネモナプリドは代表的な抗精神病薬のハロペリドールと同等以上の薬理効果を示し、脳内移行性も高いことが推察された。更に、自律神経系副作用との関連性が高いとされる α1-アドレナリン受容体及び ムスカリン受容体遮断作用が極めて弱い等優れた性質を有することが明らかとなった。1982年より臨床試験を行い、1991年にエミレースの商品名にて承認を得て、販売された。
スルピリド(ドグマチール)
スルトプリド(バルネチール)
チアプリド(グラマリール)
ネモナプリド(エミレース)