広場恐怖症は agora phobia の日本語訳で、不安障害に分類される。日本語の病名は、ICD-10にしろ、DSM-5-TRにしろ、欧米で作られた病名を直訳しているから、「変な」病名が多い。蘭学以来の輸入学問の弊害である。
「広場」とは古代ギリシャの ‘agora’に由来し、「公共の広場」を指す。古代ギリシャの都市国家ではagoraと呼ばれる特有の広場・空間があった。Agoraは人々が集い、市民総会や公開裁判を行い、商業活動をした政治経済の場である。
皆さんもお気づきの通り、わが国にはこのような「広場」はない。それでは、日本には「広場恐怖症」の患者はいないのか、というと、そうは問屋が卸さない。広場恐怖症は、単に開放空間に対する恐怖ばかりでなく、群衆がいるとか、安全な場所(家庭)にすぐに容易に逃げ出すことが困難であるなども含まれる。したがって、家を離れること、店舗、雑踏及び公衆の場所に入ること、列車かバスか飛行機を使って一人で旅行することに対する恐れなどを含む。パニック障害の有無によって下位分類する。
治療は暴露療法、認知行動療法、薬物療法である。
薬物療法は抗うつ薬のSSRIを用いる。セルトラリン、パロキセチン、エスシタロプラムがパニック障害の保険適応になっている。脳内のセロトニンの働きを調整することによって、改善すると考えられている。